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会社設立でも大丈夫?

マーケットができるということは、そのアーティストの表現である作品を受けとめる社会的土壌ができることを意味します。
ギャラリストにとって、需要と供給のバランスによって利益を循環させる純粋な経済活動とは別に、「アートの社会化=文化の構築」も大きな仕事の一つです。
村上さんの作品を扱うことでわかったのは、日本のマーケットはそこまで成熟していないということでした。
欧米との差は歴然としています。
村上さんは「日本には絶望している」と言っていました。村上さんと奈良さんアーティストはどこにいる。といますが、それも無理はないでしょう。
ただ僕自身は、たとえ時間がかかっても、ここ日本で現代アートのマーケットを確実につくり、成熟させていくことが、目下、力を注ぐべき仕事だと思っています。
アート作品はコピーライト化に堪えるか。今から七、八年前になるでしょうか。
村上さんからこんな質問をされました。
「コピーライトをどう思うのだ、小山さん」僕は正直に答えました。
「コピーライトを扱うつもりはない」と。
コピーライトの問題に首を突っ込んでしまったら、山のような仕事を抱え、ギャラリストとしての活動に差し障ってしまう。
単純にその膨大な仕事を物理的にこなすことができないことが理由でした。
僕には日本のマーケットを育てていくために、まだまだしなければならないことがたくさんあると感じていました。
そしてもう一つ、大きな理由があります。
僕はギャラリストであるということです。
ギャラリストである以上、手に取ることができるモノである作品を扱うのが本業です。
コピーライトを扱うということは、モノではなく、イメージを扱うことになります。
それは自分の仕事として「違う」と思いました。
ここでコピーライトについて、少し詳しくお話ししておきたいと思います。
通常、アート作品という場合は、キャンバスや紙に描かれものだったり彫刻だったり、なんらかの実体をともなった形が存在しています。
アートは物質なのです。
人間が考えていることや感じたこと、その総体としての文化的文脈や思想、歴史が、物質をともなってこの世に誕生する。
それがアート作品です。
コピーライ-というのは、ある意味、影も形もない「イメージ」です。
村上さんが「コピーライト」を美術の世界に持ち込むのはかなり画期的なことです。
革命です。
つまり、これまでの美術の定義を覆すことになるのです。
モノではなく、イメージとして美術が流通するということは、美術がモノを介さずに「コンセプト」それ自体として成立するということです。
二〇〇七年秋にロサンゼルス現代美術館で開かれた村上さんの回顧展。
美術にコピーライトのシステムを組み込んでいくという、村上さんの宣言のようにも受け取ることができます。
「モノ」はアーティストの手を離れ、村上さんと奈良さんアーティストはどこにいる。実際のアーティストの作品はそのイメージ、つまり権利なのだと。
その考え方はよく理解できます。
コピーライトの問題は、ブランディングの究極のシステムですから。ただし、村上さんが考えている作品のコピーライト化は、村上作品だからできることでもあります。
コピーライトの問題を考え続けてきたからこそ、ルイ・ヴィトンと対等にコラボレーションができ、さまざまな商品が成功しているのです。
はかにこういうことが可能なアーティストがどれだけいるでしょうか。しかも、コピーライトの強度は、美術作品の強度とは必ずしも一致しないのです。
作品のコピーライト化は、これからの時代には新しい問題をはらむことでしょう。
二〇〇七年秋、上海で行われたアートフェアに参加したのですが、中国では著作権やコピーライトの概念がまった-通用しません。
偽物のキャラクターがいる遊園地や、日本の人気ゲームや名作映画の海賊版など、なんでもありです。
そういう国が経済的にどんどん発展していき、世界レベルで富裕層が増えてくると、どういうことになるのでしょうか。
健全なアートマーケットを築かなければ、文化は疲弊します。
いろんな意味で、今の中国がアジアで台頭することは文化的にも脅威なのです。
インターネットの問題もあります。
ブログなどの個人サイトやのような投稿サイトが増えると、転載や盗用の機会も増えます。
そうなるとコピーライトの法規制が事実上どこまで有効なものかどうか想像の範囲を超えます。
もしかすると著作権ビジネスに携る人だけが儲ける結果になるかもしれませんね。
アート作品のコピーライト化は、物質から作品を解放してくれはしますが、「アートの消費」を食い止めることは難しいと思います。
村上さんは、本人が主宰する会社「カイカイキキ」で、こうした著作権関係の処理から作品の売買といったギャラリー的機能も含めて、広-アートマネージメントを行う体制を整えてきました。
ルイ・ヴィトンとの仕事のように、今後ますます活動が増えていくことでしょう。
二〇〇八年へカイカイキキはギャラリーを開きました。
アーティストが、自身の作品展示・販売を正式に始めたのです。
これもまた、今までに例のない活動だと思います。
ギャラリーの案内状に村上さんの自筆で「日本にアートの花を」とあるように、これから僕と村上さんは、ギャラリーとアーティストの関係ではなく、ライバルのギャラリーとして、日本のマーケットの開拓に共闘していきたいと思います。
村上さんと奈良さんアーティストはどこにいる。村上隆がクリムトなら、奈良美智はシーレ村上さんと出会った一九九〇年代初頭に、もう一人重要なアーティストとの出会いがありました。
奈良美智さんです。
時折、僕は「村上さんがクリムトだったら、奈良さんはシーレだね」と喰えることがあります。
村上さんと奈良さんは世代が一緒で、まず海外で評価されて逆輸入のようなかたちで日本での評価が追いついてきました。
それに、二人とも僕のギャラリーで扱っている、と共通点が多いのは確かです。
でも、二人はグスタフ・クリムトとエゴン・シーレがそうだったように、まったく異なるタイプのアーティストです。
クリムトは、画家としての芸術活動のほかに、社会活動にも勤しむタイプでした。
ウィーンの前衛芸術家たちを率いてグループを結成したり、高額な制作費を支える裕福なパトロンが存在したりという点は、会社を設立して工房的な制作をし、みずからマネージメントを手がける村上さんの活動と、重なる部分が多いように恩います。
一方で、奈良さんをシーレのようだと感じるのは、たった一人でストイックに措き続けるタイプのアーティストだからです。
伺年も何年もずっと、外との関係を最小限にして、自分の内面を突き詰めて措-制作スタイルを貫いています。
村上さんと奈良さんはそのくらい異なるタイプのアーティストでした。
「奈良さんの絵はイラストとどう違うの。」奈良さんについては、一九九一年の展覧会で作品を見ていましたが、当時はドイツを拠点に活動していたので、なかなか本人に会う機会がありませんでした。
初めて会ったのは一九九二年にドイツのカッセルで開催されたドクメンタを訪れたときです。
すでに奈良さんは人気のアーティストとなっていて、特に若い人の支持は熱烈でした。
しかし、マンガみたいだとか、イラストとどこが達うんだとか、痛烈に批判する人が多かったのも事実です。
でも、奈良さんの絵はマンガやイラストとは明らかに違う、その感触に確固たるものがありました。

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