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心豊かなアレキサンドライト

寝室のカーテンなのに全部透ける素材で、美しくはあるけれど口差しが入ってくる朝方はどうするのだろうか?と思っていたら全部の窓にブラインドがちゃんとつけられていました。
まずアンダースカートと呼ばれフッドパッドのマットレスの下にはかせるスカートのようなものを敷きます。
その上マットレスを乗せてシーツをかぶせ、その上に今度はアリパーシーツと呼ばれる掛けシーツのようなものを使います。
このアッパーシーツの折り返しに美しいレースを縫いつけたりしているのがよく洋語でみかけるものです。
今ではこれらのアンティークレースも私のお店の大切な石板商品ですが、こんなちょっとしたところにおしゃれ心を活かすのは本当にエレガントで豊かな心でいっぱいになります。
この上にさらにベッドカバーとして大判のレースや美しく刺繍をしたリネンなどをかけ、使っている枕、飾りの枕1個以上を添えてベッドメイクは完成。
このベッドサイドにはガラスのナイトランプが優しく光ります。
例えば『風と共に去りぬ』なんかを思い浮かべてみてください。
主人公のスカーレット・オハラがボードレールの詩集かなんかを手にとってベッドにもぐります。
ふかふかの大きな枕に頭をもたげて熱心に詩を読んでいる。
そのうち眠くなってきてナイトランプにそっと手を伸ばす。
その手元は真っ白なレースがたっぷりついたエレガントなナイトウエアスイッチを切り、あごを乗せたアッパーシーツの折り返しにも美しい華奢なレースがほどこされていて…なんて。
もう失神しそうなほどすてきではありませんか?こんな夜をマリアンは毎日フツーのこととして過ごしているのです。
ミッシェルは私が暮らしていた一家の息子ビリーと幼稚園が同じお友達のお母さんで学校の先生をしていました。
おじいさんから譲られたという築二八〇年の家はアンティークでとってもいい雰囲気。
ドアが多少傾いていたり、窓が閉まりにくくてもそんなところも含めて全部おしゃれなんです。
今までの住人が何度もペンキを塗り替えたりして大切にしてきた跡も全部財産。
こんなお家ですからミッシェルの暮らしにかける愛情は並々ならぬものがあり、私はこのご一家から何故カナダのお家ではどこも蛍光灯ではなく、電球を使うのか、何故天井吊りよりもサイドライトが多いのか、どうやって壁をギャラリーに変えてしまうのかなどを教えてもらいました。
そのお話のどれもこれも心豊かに生きるため人間を大切にする心の一つひとつの表現手段で、人生にはめりはりがとても重要であり、生きてゆくのに外での緊張と家でのくつろぎは明確に分けられ、その環境も違うべきというのが彼らの信条でした。
そしてミッシェルのキッチン。
これもまたなめまわしたくなるような素晴らしさ。
私がその後、今の仕事をするようになり現在の商品のラインアップを決定する上で、アメリカから輸入された言葉「シャビーシック」というちょっとくすんだ、ちょっと古ぼけたような、でも手に温もりの残るユニークな価値を誰よりも早く体感できたのも彼らの家を見ていたからです。
キッチンなのに赤やピンクの色をした調理道具がいっぱいある。
キッチンなのに機能的なだけではなくて可愛い雑貨が使われている。
目にする何もかも、それまでの私の常識を覆すものばかりでした。
そのどれもが日本的に言う可愛いではなくて、三〇代後半のこの家のマダムにぴったりな大人の女性にふさわしい可愛くてすてきなものだったのです。
その頃の日本にはまだ「生活雑焦」という言葉がなく、身の回りにあるものはネコや女の子の絵のついたファンシー雑貨ばかりでした。
日本という国は可愛いもの天国です。
でもその可愛さはどこか子どもっぽく、それはそのままこの国の価値観をあらわしているようでした。
でも、一体いつから日本はこんなことになってしまったのだろう?昔は日本にも大人の文化がきちんとあって、子どものそれと大人とはきちんと山根があって成熟した大人はそういう自己主張をしていたはずなのに……。
格式よりもカジュアルであることを何より大切にするカナダでしたが、それでも子どもの入れないレストランはたくさんあって、大人たちの社交場や文化は厳格に守られているのが私にはなんとも新鮮でまぶしく感じられましたリミッシェルの住まい方には無駄なものは一切なく、でも心を和ませるすてきなこだわりがたくさんある、大人の文化が誇り高く、でもチャーミングに存在していたのです。
カナダの人達がよく口にする、「ホーム・スイート・ホーム」というフレーズがあります。
「やっぱり我が家が一番」とか、日本的に言うと「狭いながらも楽しい我が家」なんてことになるんでしょうか。
でも私にはもう一歩突っ込んで、「私の一番大切な家族が心から安らげる場である私のつくった私のお家」みたいな意味を込めて奥様達がその言葉を使っていたように思えますし,私が一緒に暮らしていたカナダのお宅のご主人は本当によく家事の手伝いをする優しい方でした。
三日ごとに繰り返されるほとんど同じメニューの夕飯に文句を言わないどころか「ハニ~、今日のチキンはいい味だね」なんて昨日と同じ味のバーベキュー、ただポークがチキンになっただけなのに、奥様をよいしょする気の遣いようは本当にうらやましい限り。
夕飯が終われば綺麗にキッチンを片づけたあと、もう、足先にベッドルームに行っている奥様に今度は「ハ二~、紅茶にはお砂糖を何杯入れるかい?ミルクは?」なんて甘い声で聞いてあげる優しいご主人。
日本人の男性三人くらいと一人を取り替えてもおつりがくるのではないかと思われるくらいの献身ぶり。
休みの日は夫婦一緒に大きくてお日様のいっぱい入る窓のある、明るいキッチンで仲良くブランチをつくったりする姿を見ながら、私は役所から帰ってくると休む間もなく、狭くて使いにくい公務員住宅の台所でご飯の支度をしながら、一生懸命私を育ててくれた母の姿を思い浮かべていました。
こんなお料理も後片づけも楽しくなるような、明るくておしゃれなキッチンで家族が一緒に楽しく過ごせるのだったらどんなにすてきなことだったかしらしこんなキッチンを母にも使わせてあげたかった…。
思わず涙してしまったことを思い出します。
明るくて楽しいキッチンは人を呼び、細かいところにもこだわった暮らしは家族の心の安らぎをつくりあげてゆくのだということを、カナダ人の家族と一緒に暮らしてみて教えられました。
この時の想いこそがその後の私の一生の想い、「女の人がお家でも毎日明るく活き活きと輝いていられたらこの世はもっと平和で楽しく希望に満ちていられる」につながっていったのです。
こうして私はカナダを皮切りにイギリス、オランダ、モロッコ、ベルギーなどで併せて四年あまり、現地の人達との暮らしですっかり彼らの住まい方、生き方に魅せられてしまいました。
本気で移住を考えたこともあったけれどやはり言葉の壁は大きく、結局日本に戻って暮らすことを決心しました。
女性なら誰だって人から〝綺麗ですね〟って言われたいし、すてきに生きているって思われたいものです。
私も外国暮らしから日本に戻ってきた時には、なんとか自分の外国での経験を生かして自分でも納得のいくすてきな生き方をしたいと思っていました。
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